不可解な恋愛 【完】
「金森」と書かれた表札。確かに、あの男の名前だ。今は工場で働いていると言う。
金の森のくせに、名前負けだな。なんて思いながらドアを叩く。
最初に店に押し入ったときのことを思い出した。
だが、中からは物音ひとつしない。
どこかに出かけているのだろうか。
タイミングが悪い。
思えば今は、平日の夕方。
そんな時間に家に居るのは専業主婦かニートぐらいだ。
ポケットにねじ込んでいた資料を引っぱり出す。
そういえば地図ばかりに気を取られていて、資料をきちんと読んでいなかった。
資料には妻も働きに出ていると書いてあった。ひとり息子は小学生らしい。
……誰も居ないはずだ。なにやってんだろ。