不可解な恋愛 【完】
どうやら休暇ボケしているらしい俺は、ぼんやりした頭を掻きながら踵を返した。
ここは下手に動かないほうがいいだろう。逃げられても困るからね。
つま先を鳴らして、階段を降りる。
茜色に染まっていく空が、俺の休暇の終わりを告げていて、ちょっとだけ切なくなる。
東京帰りたくねぇなー、なんて。
煙草を銜えて歩く俺は、やっぱり道行く一般人から白い目を向けられる。
これは東京だろうが大分だろうが一緒。全国共通。
小さくなった煙草を指から離す。落ちた煙草を踏むこともせずに歩みを進めると、俺の後ろでぱたぱたと走る足音が聞こえた。
「たばこけせよー」
「はぁ?」
「やくざー!火事になったらどーすんだよ」
「…なにこのガキ」
声に振り向くと、背後にガキ。
濃紺のランドセルに、ボーダーのトレーナー。
強気な口調と相反した弱弱しげな表情が、誰かに似ている。
その「誰か」は、すぐに判明することとなるのだが。