不可解な恋愛 【完】
金森との接触は一度石田さんに相談してからにしようと、東京へ戻った。

石田さんは、今度は夜の時間帯にもう一度出直すように俺に告げた。

まぁ、もっともな命令だ。馬鹿か俺は。



その夜家に帰ると、見慣れた背中がソファーに腰掛けていた。奏音だ。

煙草の煙が彼女の背中越しに上がっている。

何も言わずに隣に座ると、たいして驚いた顔もせず、彼女は「おかえり」と小さく呟いただけだった。

疲れているんだろうか。いつもと少し様子が違い、些か気になる。

スーツを脱ぎながら、なにかあったのか尋ねると、彼女は切なげに笑って、言った。






「今日久しぶりに見ちゃった、」


「なにを?」


「人間の死に際」


「ああ、」






奏音は指でピストルの形を作り、暖房のリモコンを操作していた俺に向けた。
< 93 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop