不可解な恋愛 【完】
「人の死相ってさあ、なかなか頭から離れないわよね」
「さあ。俺、人殺さないからわかんない」
「……、そう」
「まさかお前が殺ったの?」
「んーん。もちろん部下」
自分の手だけは汚さないのが奏音のポリシーだった。
そのくらいの図太さがないと、女頭になんかなれないのだろうけど。
死んだ奴、蜷川組の人間なのよ。と奏音は言った。たいした興味も示さずに、ふーんとだけ呟いた俺に、なんだか縋るような瞳を向けて彼女はまた口を開く。
「龍と同い年くらいの男だった」
「そうなんだ」
「死ぬときにね、彼女の名前を呼んでたわ」
「へー、哀しいなあ、そりゃ」
「……冷たい人ね」
俺の受け答えが気に食わなかったのか、奏音は少しムッとした表情を浮かべて、視線を俺から外した。
暖房がきき始めた室内に、生温い空気が充満する。
奏音が2本目の煙草を吸いはじめたのと一緒に、俺も煙草を吸った。ふたつの煙が空中で絡まって、ひとつになって、消えていく。