不可解な恋愛 【完】
「龍は、どうかしら」
「なにが?」
「死に際に、誰の名前を呼ぶのかな」
「………、」
「…奏音だよ、ってすぐに言えないくらい、浮気の女にはまってるの?」
奏音の言葉に、何も言い返すことができなかった。
俺が、最期に逢いたいのは誰だろう。
俺は、もし奏音に裏切られて殺されるなら、それはそれでいいと思って今まで彼女と付き合ってきた。
彼女が少しでも俺に同情して、俺の亡骸を腕の中に納めてくれたらなおいいな、なんて。
だけど今は違う。いや、違うと言い切るのも違うけれど。
もし杏奈に逢わずに死んだとしたら俺は、たとえ奏音に殺されたとしても、きっと成仏できないだろう。
杏奈に逢いたい。もし死ぬなら、杏奈に一言、本当に愛していると伝えて死にたいよ。
だけど、奏音に逢わずに死んだとしても後悔するんだろうな。
「そういうの面倒臭いから、俺は死にたくない」
「…あっそう」
「ロマンチシズムとか、俺に求めんなよ」
「別に求めてないけど、」
頭ん中ではメロドラマのようなことをぐだぐだと考えているくせに、それを表面に出すのは恥ずかしくて
奏音の問いかけを無視したまま、煙草を灰皿に押し付けた。
「じゃあもし、私とその女が同時に死にそうになってたら、どっちを助ける?」
「だからー、めんどくさいこと聞くなって」
「…わかったわよ」