不可解な恋愛 【完】
奏音は、帰る、と一言呟いて、長い髪をかきあげた。
露わになった横顔が、酷く憂いを帯びていて
人殺して病んでるときなのにちょっと悪いことをしたかな、なんて少し申し訳ない気持ちになって
立ち上がった彼女の手首をぎゅっと掴んだ。
「もし、お前とあいつが一緒に死にそうになってたら、そんときはふたり同時に俺が俺の手で殺してやるよ」
奏音は小さく笑って、それが一番幸せかも、と言った。
俺は奏音を好きな、はず。なのに「奏音を助けるよ」と嘘もつけないしょうもない男だ。
そんな俺のどこがいいの?と、本当は問い返してやりたい。
手首を掴んでいる俺の手を解いて、奏音は微笑んだ。
そして、彼女を見上げる俺に向ってゆっくりと言う。
「私のこといくら蔑ろにしても構わないけど、龍は私が居ないと、きっとダメよ」
「なにを根拠に、」
「女の勘。でも安心して。ずーっと傍にいてあげるからね」
微笑みを称えたまま彼女は出て行った。
だけどその微笑みの裏で、きっと奏音は泣いていたんだと思った。
鉄のような女だとずっと思っていたけれど、多分彼女は酷く脆い。
彼女の広さに甘えてばっかじゃ駄目だな、この先。
いっそ一度手放した方が
俺も奏音も、楽なのかもしれない。