I love you(短編集)
告白
「乗ってく?」
夕陽の熱を背負い、ひとり歩道を歩いていると、車道からそう声をかけられた。
視線を向ければ、白いバイクに乗った白いメットがこちらを見ている。
僕は笑って頷いて、その後ろに乗った。
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「受験勉強、頑張ってる?」
喋るたびに、シフォン素材のブラウスがふんわりと胸にあたる。その感覚に、ああこの人は女の人なんだとあらためて実感する。
出会ってから十年が経ったのに、僕はまだ、今の彼女の中に十年前の彼女を見てる。
ぼうっと甘い感覚に浸っていると、聞いてんのと不機嫌そうな声で聞かれ、慌てて相槌を打った僕に、彼女は小さく笑った。
彼女がそうやってかすかにでも動くたびに、ふわりと柑橘系の香水の香りが鼻をくすぐる。
やがて赤信号で停止し、今更だけれど普通じゃないはやさで心臓が騒ぎ始めた。
とくとくとく。
―彼女はきっと、気付いていない。
とくとくとく。
―僕がいま考えていることなんて、これっぽっちも。
…それでもこのなんでもない一瞬一瞬が、僕にとっては幸福で。
胸の奥底から、突如せきを切ったようにあふれ出す想いが、硬く閉じた扉をこじ開けた。
「……あのさ」
「うん?」
「………好きだ」