I love you(短編集)
「大丈夫。生きてさえすれば、また初めから、何度でもやり直せるから」
そう言っていつだって、弱気な私の背中をさすってくれたアナタが、自殺した。
午後六時、学校から帰宅した私がその報せを聞いたときに先ず感じたのは、心から、何か大きなものが抉り取られる感覚だった。
涙さえも出ずに立ちすくんだ。
ただぎゅっと拳を握り締めてフロ-リングの床を見つめた。
意識せずに握った掌に力が入り、ぎりぎりと爪が食い込んで、そこからじわりと痛みが走る。
いつまでそうしていたのだろう。
噛んでいた唇が切れて血の味がしたとき、私は衝動的に家の外へと飛び出した。
さっきまで乗っていた自転車に再び跨って、アナタが好きだった近所の雑貨屋の前、たまに一緒に帰るときに歩いていた路地、子どもの頃一緒に遊んだ公園の前を通った。
全部、確かにアナタがそこに存在したはずなのに、何処にもアナタはいなかった。
いない。
アナタがいない。
何処にも。
アナタだけが、いない。