I love you(短編集)
雨が、降っていた。
赤い水玉の傘を差して、ひとり。
くすんだ色の傘ばかりがせわしく動き回る歩道の真ん中。私は、目の前に広がる純白の世界をただぼんやりと見ていた。
斜めに走る、冷たく鋭い水の矢。
点滅する青信号、濡れたアスファルトの上を行き交う人。
数分前まで、切なくなるほど一生懸命に己を主張していた色たちは、瞬く間に白に塗りかえられていく。
雨粒だけが生き生きと呼吸を繰りかえし、まるでその他の生命すべての時間が止まってしまったかのようで。
目の前に散らばる生命の鼓動は、どれも嘘くさく感じられた。
ぱたぱたと
冷たい粒が跳ね上がって
落ちていく。
水溜りに広がった波紋は
重なっては、消える。
こんなにも脆く儚いのに
こんなにも強く鋭いのは、何故なのか。
降りしきる雨の中、ひとり。
私は、立ち尽くしていた。