I love you(短編集)
窓から差し込む日の光に、君はまぶしそうに眼を細め。
恭しく僕の手から本を受け取ると、分厚く色あせたそれを暫くの間愛おしげに見つめ、長い睫毛を伏せて胸に抱いた。
飴色の巨大な本棚に挟まれ、光を纏い立つその姿はまるで一枚の絵画のようで
この世のものとは思えないほどに、美しく。
僕は呼吸をするのも忘れて立ち尽くしたまま、思わず見惚れてしまった。
だがそんな自分はたまらなく、情けなくて。
胸のうちの思いを知れば知るほどに、己の恥を知るのだった。
……いつだってエキストラの僕と、知らない国の王子と愛を交わした、君。
世界は、皮肉だ。
形の良い桃色の唇から零れ落ちる、ありがとうという言葉の、儚さと美しさ。
君とともに過ぎ去る一瞬もその空気もすべて、僕は掴み取ることはできないというのに。
君はまたそうやって、柔らかく微笑むばかりで。
ただ、冷たいだけの時に流されながら、物語の終わりを告げる錆びた鐘の音を、僕はこの胸に刻んだのだった。