満ち足りない月
するとまたコンコン、と木造の物を叩く鈍い音がした。今度は先程よりも強く。
セシルはぴたりとその場に立ち尽くした。
大広間から聞こえる。
これはノックの音、よね……?
途端に冷や汗がツーっと首筋を流れた気がした。
誰かがこの屋敷に訪ねてきている。
いやそれとも迷ったのか。
どちらにしてもこんな普通、“辿り着くはずがない”森の奥の屋敷に来ているのだ。
それに今は朝。
迷ってここに来る事はあるのだろうか……。
段々、偶然ここに来たというより故意にここに訪れたという考えの方が大きくなっていた。
もし故意に来たんだとしたら…
――もしかしてここまで追ってきた?
そんな考えが頭をよぎった。