満ち足りない月
セシルは急に固まった肩をさすった。
その間にもドアは叩かれ続けている。
ドンドン、という荒っぽい音が廊下にまで響いてきた。
体が小刻みに震え出す。
もしそうだとしたら…
“私はまたあの暗闇の中に置き去りにされる”
頭の中でその言葉が耳鳴りのように繰り返されるようだ。
セシルは気持ちを落ち着かせようとゆっくりと呼吸をした。
大丈夫。
こんな所にわざわざ来れるはずがない。
来ようと決めてもそう簡単に辿り着ける場所でもないのだから。
大丈夫。
セシルはもう一度心の中で呟くとぎゅっと掌を握り締めた。
そして廊下を歩き出す。
拳から汗が滴り落ちそうなくらいセシルの手は緊張で汗ばんでいた。