満ち足りない月
扉が完全に開いた状態でお互いを見て目を大きく丸くする二人。
突然の驚きで扉の取っ手を掴んだまま硬直しつつ、セシルは相手のその青年の顔を直視した。
黒い瞳、くるっと跳ねたような漆黒の髪の毛は恐らくクセなのだろう。
そして健康的に焼けた肌。
セシルが見てきた男性の中でも見た事がないような外見だった。
特に髪の色。
いろんな男性に会ってきたが黒い髪の人は初めてだった。
セシルはその外見にも行動にも驚き、呆気にとられていた。
相手の男も同じ事を思っているのか、目を見開いたままこちらを見ている。
しばらくどちらも固まったままの沈黙が続くと、ふいに相手の男が笑った。
「ハハハ。なんや俺家を間違うたみたいや。失礼失礼」