満ち足りない月
「ここには陰険女ったらし男が住んどったはずなんやけど、どうやら引っ越したみたいやわぁ」
呆気にとられたままのセシルを置いて、尚も男は笑いながら「ほな失礼しました!」と言うと扉をゆっくり締めた。
―――その時。
さっきと同じ様に扉をガシッと手が掴んだ。
今度は見覚えのある色白の手。
「“誰が”陰険だって?」
語頭を強めながらラルウィルが男の後ろから現れた。
その顔はにっこりと微笑んでいるが、
目が笑ってないわよ…
セシルは心の底で思った。