満ち足りない月
愛なんて言葉、今まで使った事がないし、たった数日だけでそんな重い言葉をなぜ今自分が考えたのか、セシルには分からなかった。
彼は絶対に触れない。
男女が一つ屋根の下にいるというのに何ひとつ起こらない。
けれどセシルは徐々にあの半ヴァンパイアに惹かれていた。
気持ちも言われないし、何もされない。
それなのに何故こんな気持ちが起こるのだろうか。
何故彼を愛しているという気持ちが、ここにいたいという大きな理由になっているのか。
セシルはこの認めてはいけない気持ちを認めざるを得なかった。
しかしそれは禁断の気持ちだ。
相手はヴァンパイア。
もし気持ちが通じ合う事が出来ても、その先にあるのは幸せではない。
彼にはもう知られているかもしれないけれど、言葉に出して伝えていない今ならあの人の元を去って行ける。
本当の名前も言っていない。
だから自分が誰なのか、ラルウィルは知らない。
セシルは迷っていた。