満ち足りない月




「他人をあまり信用しないヴァンパイアにとって、恋人は決して簡単には選ばない。その長い一生を相手に捧げ、生きるのだからな。故に家族となった者しかヴァンパイアにとって信じる者はない」


なんだか凄い世界だ……。

自分の恋人、家族以外は信じない。

固い絆と呼ぶには軽すぎるくらい重いのだろう。


しかし、それは自分の家族以外は“敵”だという事。

決してお互い干渉したりしない、ヴァンパイアの無言の掟。


そんな中に友情なんて存在するのだろうか。


セシルは口を強く結んだ。


「まあ、そう堅くなるな。ヴァンパイアにだって友人ぐらいはいるさ」


またやられた…。なんでも分かってしまうのね、この人は。

セシルは小さくフッと笑った。

「じゃあヴァンパイアは人間の女と結婚するのね。でも違う種族の者をヴァンパイアが信じられるの?」


セシルは疑問を問いかけてみた。

しかし返ってきたのは低い笑い声。


「いいや。ヴァンパイアは人間とは結婚しない。というよりは人間と“だけ”は絶対にしない」


“だけ”は?

「どうしてよ。人間にだって魅力的な女性はいるわよ」

セシルは何故か、むきになって答えた。
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