満ち足りない月
「はは、まあな。例えば君とか?」
からかうような笑みでセシルをちらっと見た。
カーッとなって赤くなる。
「べ、別にそういう意味じゃ…」
もしかして、自分の事を言ってるみたいに思われたかも…。そう思うと余計に手が汗ばんできた。
「ヴァンパイアには女もいる」
「えぇー!?」
セシルは思わず声を高く上げた。
「そんなの聞いた事ないわよ。だってヴァンパイアは若い女性の血を吸う、って――」
「まあ、血といってもどんな奴でも人間の血なら誰でも構わないんだがな。男でも女でも。だが、中年の素敵な叔父様の血を吸うのは流石に気が引けるだろ?」
「まあ、そういうもんさ」とラルウィルはハハッと笑った。
な、何だぁ。じゃあ私、全然大丈夫じゃない。
セシルはゆっくりと安堵の息を漏らした。
「まあ俺は若い女性の血は大好きだけどね」
それを分かっていたようにニコッとわざとらしく笑うラルウィル。
「残念ね。私は絶対に嫌よ」
今のうちにこうでも言っておかないとこの男なら何を仕出かすか分からない。