満ち足りない月
「フフ。まあ冗談は良しとして、君はもう寝るといい。いつの間にかこんな時間になってしまった」
ラルウィルはそう言いながら、ちらっと掛けてある時計を見た。
長い針は12を過ぎていた。
時間が過ぎるのは早い。いや、話に夢中になっていた私達がただ、時間というものを忘れていただけか。
「そうね。いろいろ聞けて為になったわ。ありがとう」
セシルは席を立ちながら笑いかけた。
ラルウィルの案内で食事室を出るとセシル達は再び二階へ上がっていく。
初めて階段を上がった時から数時間しか経っていないのに、何だかこの背中に親しみを感じ始めていた。
ふと、セシルは聞こうと思っていた事を思い出して話し出した。
「そう言えばこの屋敷って誰か他に居るの?」
「いない」
あまりの即答にセシルは驚いたが、振り返るラルウィルの顔が微笑んでいたのでそう気にしなかった。