満ち足りない月
「じゃあ、君の泊まる部屋はここだ。好きに使っていい」
ラルウィルがそう言って立ち止まったのは二階の一番端にある部屋だった。
キイィ――
という軋む音がするとブラウンの綺麗な色の扉はゆっくりと開いた。
「俺は決して入らないから」
珍しくニッと笑うと彼はどこか少年のように見えた。
不思議な人。
この人にはたくさんの顔がある。
…でも私はその中のほんの一部しか知らないのね。
セシルはラルウィルの顔をじっと見つめながらそっと呟くかのように言った。
「おやすみなさい」
「おやすみ、エル」
口角をくっと上げこちらを見つめるラルウィルは凄く、ただ綺麗でずっと見つめてしまいそうになった。
しかし、彼はゆっくりと扉を閉める。
――パタン。
扉が閉じてもセシルは見えなくなった彼をボーっと見つめていた。