満ち足りない月
私はやはりおかしくなってしまったらしい。
相手はヴァンパイアで、屋敷には二人きりだと言うのにさっきの言葉をあっさり信用している。
私の友人達や父達が聞いたら、どんなに驚き、どんなに私を馬鹿だというのだろうか。そして、どんな事をしてでも止める。
いや、私が彼女等の言葉を信じた事は元からなかったじゃない。あの人達はいつだって私を閉じこめてきた。
どうせ、心から私を愛してなんていない。
セシルは持ってきた黒いトランクをベッドの横にそっと置いた。
部屋の中は広かった。
綺麗なドレッサーや棚、クローゼットは廊下や他の部屋とは違い、綺麗にしているようだ。
恐らくここは客間なのだろう。
泊まる事になった来客をここに泊めさせているのだろう。
あの人もそういう所はきちんとしてるのね。
サァーっと、静かな風がセシルの横を吹き抜けた。
ひんやり冷たい涼しい風だった。
森を通る時は不気味に感じていたその風も今は気持ちいい。
風に身を任せるように、大きな窓の前に立った。