満ち足りない月
Ⅱ 月夜の逃避
見上げた天井がいつもと違う事に気づき、目を見開いた。
そのままガバッと起き上がる。
「あ、そっか私……」
ぼーっとした頭で昨日あった出来事を思い出してみた。
今、自分はあそこにいないのだ。
そしてここは、吸血鬼の館――
セシルは真っ白なベッドの周りを見た。
開いたままの窓から流れる風を受けて、綺麗な日溜まりのような色のカーテンが揺れる。
全ては昨日起こった事だ。
今日どうするかをまた考えなくてはいけない。
ここを離れたら次はどこへ行けばいいのだろう。
行く先なんてないのだ。目的地などない。
あるとするならば、誰も私を追って来ない所。誰も私を知らない所だ。
しかしそんな所があるはずがない。