この手を離さない
「本当に嬉しいです。今更何を言っても伝わらないかもしれませんが、嬉しいです。」


俺の胸に抱き着いたまま彼女の満面の笑顔を俺に見せた。


………。


ちょっとドキッと鼓動を感じてしまった。


いけない、いけない。


年甲斐もなく見とれてしまうなんてバカみてー。


我に返り、まだ俺にしがみつく彼女を見た。


「おい、いつまで抱き着いてるんだ?」


「す、すいません。嬉しくてつい…」


両手を上げバッと勢い良く離れた。


「こっちおいで」


彼女の膝に大人しく居た子猫を抱き上げる。


愛くるしい丸い瞳が胸をキュンとさせた。


「これでもう安心だろ?君は家に帰りなさい」


「はい。」


後ろ髪を引かれるように猫を見て、


車のノブに手をかけたが、


もう一度振り向いた。
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