この手を離さない
「誠一…」



「みんなまた戻りたいんだよ。また音楽がやりたいんだよ恭介。だから…」



誠一は俺の言葉が耳に入らないほど自分の思いをぶつけてきた。



「ごめん、今は戻れない…」



「どうしてだよ!理由は何だよ!」



どんどん誠一が俺の方へ詰め寄ってくる。



誠一の目を…



今は見れなくて…



逃げるようにソファーから立ち上がった。



「今、俺が戻っても良い音楽なんて造れない。また前のように息詰まってしまうだけだ。」



「そんなの…やってみないと解らないだろ?」



「疲れたんだよ…。あの時俺達は走りすぎたんだよ。」



俺の返事はマイナスだらけ。



誠一みたいに前向きに考えろよ、と何度も思った。


そろそろバンドの仲間やファンの皆に応えたら良いじゃないか。



どうしたんだよ俺…。



どこで歯車が狂ったんだ?



誠一の視線が俺の背中を見ているのを痛いほど伝わってくる……。



その日から誠一が家に来る事も電話も一切無くなった。
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