君に染まる(前編)
「どうした?なんかぼーっとしてるけど」
そう言って、
心配そうにあたしの顔を覗いてきたのは
堀河(ホリカワ)さんだった。
堀河さんはあたしの通う
ピアノ教室の先生。
家の近くにあるピアノ教室は
CDショップの地下にあり、
ここで働く人ほとんどが
ピアノ教室の先生とCDショップの店員を
かけもちしている。
もちろん、堀河さんもその1人。
「未央ちゃん?」
「あ…だ、大丈夫です」
あたしはそう返事をして
ピアノのふたを閉めた。
「今日はもう帰ります。
いい演奏できそうにないんで…」
「そうだね。
心ここに在らずって感じだし」
「すいません…」
「いいよいいよ。
未央ちゃんは他の子より
課題進んでるんだし、
ちょっとくらい休んだってね」
優しくそう言ってくれた堀河さんに
ぺこっとお辞儀をしてかばんを持った。
「最近元気無いみたいだね?
吏雄が心配してたよ」
店への階段を上がりながら
堀河さんが聞いてくる。
「お兄ちゃんが?」