君に染まる(前編)
「吏雄の奴シスコンだろ?
未央ちゃんが元気無いこと気にしてて
仕事が手つかずなんだ」
「…すいません」
苦笑いをしながらまたお辞儀をした。
お兄ちゃんと堀河さんは
同じ音大に通う同級生で
昔からの親友。
お兄ちゃんもここのピアノの先生で
大学に通いながら働いている。
昔から教室に通っていたお兄ちゃんは
すごくピアノが上手い。
ピアノを弾いてる時は
いつもと違ってかっこいいんだ。
「吏雄に会っていかなくていいの?
今日は店に出てるから
すぐ呼んでこれるけど…」
店の入り口のドアを開いたあたしに
堀河さんがそう言った。
「いいですよ、どうせ家で会えますし」
「そっか。
まあ、なにがあったか知らないけど、
吏雄にあんま心配かけないようにね」
「はい」
笑顔でうなずき店を出た。
心配か…。
お兄ちゃんに心配されるほど
元気なかったのかな…?
この数日間ずっと逃げ回ってたから
疲れてたのかも…。