君に染まる(前編)
ピアノを弾いてる時は
どんな嫌なことでも忘れられる…。
パチパチパチ
夢中でピアノを弾いていたあたしは
急に聞こえてきた拍手に手を止めた。
「上手いんだな、ピアノ」
振り返った先には
ドアにもたれる獅堂先輩がいた。
「続けろ」
「え?」
「聞いてやる」
ピアノにほおづえをつき、
笑顔であたしを見下ろす。
「どうした?弾けよ」
「…弾きません」
「あ?」
「あたし、教室に戻ります…」
「待て」
立ち上がろうとした瞬間、
腕を引っ張られ強引にイスに座らされた。
「何イライラしてんだ?」
あたしをピアノに押しつけ
顔を覗きこんでくる。