君に染まる(前編)
「好きだ」
そう言われたことは無い。
「未央は俺のお気に入りだからな」
そう笑ってキスしてくれるけど、
「好きだ」
そう言ってはくれない。
だから分からなくなる…
“俺の女になれ”の意味。
創吾先輩ほどの強引さなら
それを告白と受けとっても
間違いではないのかもしれない。
けど、やっぱり…
“好き”って言葉を聞きたい。
他には何もいらないから、
先輩の口から“好きだ”って…。
―――ドンッ
うつむいて階段を下りていたあたしは、
目の前に人がいたことに気付かず
ぶつかってしまった。
「す、すみません!」
ぶつかったせいで
じーんと痛む鼻を押さえながら
顔を上げると、
「…誰?」
振り返ってあたしを見下ろすその人。