君に染まる(前編)
ただ逃げる理由が欲しかっただけ。
…先輩逹は、
どうしてわざわざ言いに来たの?
獅堂先輩があたしに飽きたのなら
別に知らせてくれなくても良かった。
だって…
先輩があたしに会いに来てくれない限り、
あたしと先輩が会うことは無い。
あたしが先輩に会いに行ったことは
1度も無いから。
それだけの関係だったんだから…。
「それではこれより、
後夜祭を始めたいと思いま~す!」
すっかり辺りは暗くなり、
グラウンドに響く
テンションの高い司会者の声。
2日間の文化祭も終わり、
最後のお楽しみ後夜祭。
司会者同様、
周りの生徒のテンションも高い。
けど…あたしは違う。
「暗いなー…」
グラウンドを囲む芝生の生えた坂に
座っていたあたしの横に座りながら
顔を覗きこんでくる楓ちゃん。
「昨日からずーっと同じ顔。
楽しめなかったでしょ?文化祭」
楓ちゃんの言葉に
何も言わずうつむいた。