君に染まる(前編)
だんだん声が小さくなっていく先輩は、
あたしを抱きしめる力を強めた。
「お前が好きだ」
首筋に感じたその言葉に、
すぐには頭が回転しない。
「…ほ…んとう…ですか?」
「嘘なんかつくかよ」
「じゃあ、顔見て…」
「ば、ばか!やめろ!」
先輩から離れようとしたあたしを
慌ててぎゅっと抱きしめる。
「このままでいいんだよ」
「で、でも…
顔見て言ってもらえないと信じれません」
意地になってそう言ったあたしは
先輩の体を押した時に気が付いた。
あたしの手のひらに伝わってくる
先輩の心臓の音。
…すごくドキドキしてる。
「大人しくしてろ」
あたしと先輩の間に一瞬出来た空間は、
先輩があたしを抱き寄せたことで
すぐに無くなった。