君に染まる(前編)
「あの、先輩…」
今度は、頬から感じる先輩の心臓の音。
「もしかして、緊張…して…ます…か?」
途切れ途切れの言葉でそう聞くと、
すごく低い声で返事がかえってきた。
「…ああ?」
久しぶりに聞くそんな声に
思わず黙ってしまう。
けど、
頬から伝わってくる音は変わらなくて、
それだけでなんだか嬉しかった。
“お前が好きだ”
俺の女になれ…よりも、
あたしが本当に聞きたかった言葉。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて…
頬に伝わってくる鼓動が妙に心地よくて、
あたしはすっかり忘れていた。
「…お前は?」
耳元でそう聞こえたかと思うと、
さっきまで速かった先輩の鼓動が
機械のようにぴたっと止まった。
あたしを自分から離して見つめてくるのは
さっきの鼓動の主とはまったく思えない。
いつもの俺様・獅堂先輩。
「お前はどうなんだよ。
俺のこと好きか?」
まるで「好きって言え」
というような目付きにたじろぐ。
でも…ちゃんと言わなくちゃ…。