君に染まる(前編)
気付かれないよう小さく深呼吸をして、
そらしていた視線を先輩に向けた。
「あ、あたしも…」
「やっぱ変える」
急にあたしの言葉をさえぎった。
「俺の女になってくれるか?」
真剣な瞳。
一瞬戸惑ったけれど、すぐに気付いた。
あたしは先輩に
“好き”って言って欲しかった。
けど先輩は…
“俺の女になれ”の答えを
聞きたがってた?
なんだか胸がきゅーっとなったあたしは、
先輩の胸に顔をうずめた。
先輩の“俺の女になれ”の言葉。
思った以上に不器用な先輩だから
自分では気付いてないのかもしれない。
“好き”って意味だったこと。
それが“告白”だったって。
「…先輩の彼女にしてください」
先輩のシャツをぎゅっと握った。
…今なら、なんとなく、
先輩が顔を見たがらなかった理由が
分かる。
気持ちを伝えるのって、
こんなにも緊張するものなんだ。