君に染まる(前編)


「顔見て言えよ」



さっきのお返しなのかもしれない。



先輩の声はすごく意地悪そう。



あたしは先輩の胸に顔をうずめたまま
首を横に振った。



けど、
先輩の力であたしの体はあっさり離され、
うつむいたあたしの顔を
先輩は覗きこんでくる。



「聞こえなかった。もう1回言え」



「…嘘ですよね?」



「嘘じゃねぇよ。本当に聞こえなかった。
だから、ほら」



…ずるい…先輩はずるい。



「…あたしを」



「やっぱいいや」



もう1度伝えようとした気持ちは
唇をふさがれたことで
簡単にさえぎられた。



ほら…やっぱりずるい。



『言え』って言ったり、
『いい』って言ったり。



気まぐれで動く先輩。



あたしはただ流されるだけ。



けど、いいの…。



少し唇を離し、
あたしをまっすぐ見つめて囁く。


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