君に染まる(前編)
肩を落として大きなため息をついた時「百瀬さん」と後ろから声をかけられた。
振り返ると同じ学級委員長の野田くんが立っていた。
「今から委員会だよ?行かないの?」
「…あ、ごめん。忘れてた」
時計を見て慌てて立ち上がる。
「そう言えば未央、また委員長押し付けられてたね」
もう慣れました、って顔で楓ちゃんが私を見る。
「ごめんね楓ちゃん、行ってくる」
先に教室を出た野田くんを追いかけながら楓ちゃんに手を振った。
「それにしても…朝は驚いたな」
隣に並んだ瞬間、ふいに野田くんが呟いた。
「何が?」
「公開キス」
爽やかな笑顔でそんなことを口にする野田くんに思わず持っていたファイルを落とした。
「すっごい動揺。百瀬さんって純粋なんだね」
「じゅ、純粋?」
慌ててファイルを拾いながら首を傾げる。
「でも、あの獅堂先輩に目ぇつけられてこれから百瀬さん大変だね?VIPルームってやつにに連れ込まれるんじゃない?」
その言葉にまたファイルを落とした。
「あはは!!百瀬さんホント分かりやすい」
「や、やっぱり、その噂ホントなのかな…」
少し震える手でファイルを拾う。
「そんなに詳しくは知らないけどあんまりいい噂じゃないみたい―――」
ファイルを拾って顔を上げた瞬間、野田くんの口が止まった。
「どうしたの?」
首を傾げる私の後ろを指差す。
指差す方へ振り向くと同時に誰かに勢いよく抱きしめられた。