君に染まる(前編)
唯一動かせる手で先輩の肩を叩くと、
ようやく解放された唇。
「…痛ぇよ」
「だ、だって、苦しくて…
それに、もうすぐ下についちゃいますよ」
「あ?…んー…」
目を細め、一瞬窓の外を見た先輩は、
「まだ大丈夫だろ」
そう言って、再び唇をふさいだ。
「で、でも…」
「……分かったよ」
渋々あたしの体を解放すると、
不貞腐れたように顔をそらした。
また、機嫌悪くさせちゃった…。
でも、先輩と違って、
あたしはこういうことに慣れてないし…。
申し訳なく思いながらも
地上に近づくにつれほっとする。
ふと視線を落としたあたしの目に、
先輩からもらったネックレスが映った。
さっきはあんなこと言っちゃったけど、
あたしの為に先輩が選んでくれたのに
受け取らないなんて失礼だよね…。
「…獅堂先輩」
あたしの呼びかけに視線だけを向ける。
「ネックレス、ありがとうございます」