君に染まる(前編)
先輩に引っ張られて歩くあたしに
周りからの視線が集まる。
すごい目で睨んでくるのは、
きっと、獅堂先輩のファンの人達。
あまりにも痛い視線を向けるので、
思わず顔を隠すようにうつむいた。
「…気にすんな」
ふいに聞こえてきた声に顔をあげると、
腕を掴んでいた先輩の手が
あたしの手をしっかりと握りなおす。
「ファンの奴らなんかほっとけ。
お前は堂々としてればいい」
自信たっぷりのその言葉と、
握られた手から伝わってくる先輩の想い。
それだけで、
あたしは少し顔をあげることができた。
少し歩いたあたし達は、
Ⅲ類生徒専用の駐車場にやって来た。
ずらーっと並ぶ高級車の中に、
あたし達の姿を見つけた瞬間
深く頭を下げる人が目に入る。
「お疲れ様です、創吾様」
車の側に立っていた
運転手らしきその人は、
そう言って後部座席のドアを開けた。
「乗れ、未央」
「え?」
「いいから」