君に染まる(前編)


「あなたが、百瀬未央様ですね?」



「あ、は、はい!」



やわらかい笑みを浮かべるその人に、
慌てて返事をする。



「私は、坊ちゃんの世話係の
畠山(ハタケヤマ)と申します」



畠山…昨日、先輩が話してた人?



「坊ちゃんからあなたのことを聞いて、
あなたに会えるのを
楽しみにしていたんですよ」



「え?」



「あなたの話を聞いた日から
坊ちゃんは毎日が楽しそうでした。
話している時の坊ちゃんもまた…」



「くだらねぇこと話すな畠山」



畠山さんの言葉をさえぎった先輩は、
1人で家の中に入っていった。



「照れてるみたいですね。
坊ちゃんにしては珍しい」



くすくすと笑いながらそう言うと、
畠山さんはあたしを家の中へうながした。



うわ…広い……。



玄関だけでもあたしの部屋より広く、
その中に1、2足の靴が
ぽつんと置かれているだけだった。



玄関の真正面にある大きな階段は、
ちょうど先輩があがっているところで、



「早く来い」



立ち止まり振り返った先輩を
慌てて追いかける。


< 249 / 337 >

この作品をシェア

pagetop