君に染まる(前編)
「あなたが、百瀬未央様ですね?」
「あ、は、はい!」
やわらかい笑みを浮かべるその人に、
慌てて返事をする。
「私は、坊ちゃんの世話係の
畠山(ハタケヤマ)と申します」
畠山…昨日、先輩が話してた人?
「坊ちゃんからあなたのことを聞いて、
あなたに会えるのを
楽しみにしていたんですよ」
「え?」
「あなたの話を聞いた日から
坊ちゃんは毎日が楽しそうでした。
話している時の坊ちゃんもまた…」
「くだらねぇこと話すな畠山」
畠山さんの言葉をさえぎった先輩は、
1人で家の中に入っていった。
「照れてるみたいですね。
坊ちゃんにしては珍しい」
くすくすと笑いながらそう言うと、
畠山さんはあたしを家の中へうながした。
うわ…広い……。
玄関だけでもあたしの部屋より広く、
その中に1、2足の靴が
ぽつんと置かれているだけだった。
玄関の真正面にある大きな階段は、
ちょうど先輩があがっているところで、
「早く来い」
立ち止まり振り返った先輩を
慌てて追いかける。