君に染まる(前編)


追いかけようと立ち上がった時、
違和感の無くなった背中に気付いた。



あれ?ブラのホック…ついてる?



背中に手を回し確認しながら、
さっきの先輩の動作を思い出す。



あれは…ホックをつけてくれてたんだ…。



ピアノカバーをめくる先輩を見つめ、
妙に恥ずかしくなる。



そんなあたしの視線など気づきもせず、
ピアノのふたを開けた先輩は
あたしを見て小さく笑った。



「今日はそれで許してやる。
だから、さっさと覚悟決めてこい」



それ?許す?



「つーか、お前ピアノ弾けるんだろ?
聞いてやるから早く弾けよ」



意味が分からず首をかしげるあたしに
先輩は手招きをする。



「あ、はい」



乱れた服を簡単に直して立ち上がり、
ピアノの前に座った。



そっと鍵盤に手を乗せ、
メロディーを奏でる。



わ…やっぱり、すごくキレイな音…。



大好きなピアノに触れるだけで
自然と笑みがこぼれる。



そんなあたしを先輩は、
ピアノの音を遠くに聞きながら
ただただ見つめていた。










次の日。


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