君に染まる(前編)


「たまには生の音が聞きたいんだけどな」



そう言って、
曲が流れてくる
天井のスピーカーを指差した叔父さん。



「未央ちゃん、ピアノ上手なの?」



「上手ってもんじゃないですよ!?
通ってるピアノ教室の生徒の中で
ずば抜けた腕前なんですから」



美紅先輩の問いかけに、
いつの間に戻ってきたのか、
叔父さんの後ろから顔を覗かせた
楓ちゃんがそう言う。



「店内で流れてる曲は
ほとんど未央が作曲したんですよ」



「え、そうなの?」



「ま、まさか…」



驚く美紅先輩に慌てて顔を振る。



「でたらめ言うな楓。
正確には、
未央ちゃんのピアノ教室の人が
作曲してくれたんだろ。
未央ちゃんはそれを手伝っただけだ」



「ああ、堀河さんと吏雄くんでしょ?
でも、100%未央が作った曲、
1曲だけだけどあるでしょ」



楓ちゃんがそう言うと、
美紅先輩は目を輝かせた。



「へぇ!聞きたい聞きたい。
未央ちゃん弾いてよ」



「え…………あ、じゃあ……」



ためらいがちに立ち上がり、
近くに置いてあるピアノに向かった。



イスに座ってふたを開き、
そっと鍵盤に手を乗せる。


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