君に染まる(前編)
「な、なんとなく…?」
そう答えると、
少し疑り深い目で
あたしを見つめたお兄ちゃんは、
イスに座って鍵盤に手を乗せた。
そして、流れだすメロディー。
…やっぱり、すごい。
いつものシスコン姿からは
想像出来ないほど、
ピアノを弾いてる時のお兄ちゃんは
本当に輝いて見える。
って…
お兄ちゃんのピアノに
聞き惚れてる場合じゃない。
「ちょっと、用が無いなら出てってよ」
「え~…兄ちゃんまだここにいたい!」
「子供みたいなこと言わないで…」
だだをこねて動こうとしないお兄ちゃんに
深いため息をついた。
「あ。なあなあ!
久しぶりに兄ちゃんと連弾しないか?」
「しない。もう、早く出てって!」
お兄ちゃんの腕を引っ張り
強引に部屋から追い出す。
「ちょっ…おい未…」
バタンッ!
体全体で扉を閉め、
そのままもたれかかる。
「ホント…シスコンってやだ…」