君に染まる(前編)
うんざりしながらピアノの前に戻り、
楽譜を並べて
いざ弾こうと鍵盤に触れた瞬間、
「作曲?」
「!?」
耳元で囁かれ、思わず立ち上がる。
振り返った先にいたのは堀河さんだった。
「あ、ごめんごめん。
そんなに驚くと思わなかったから」
少し焦った様子であたしに謝ると、
近くにある楽譜に視線をうつす。
あ…。
ヤバい、と思い、
慌てて楽譜を隠そうとしたけど
堀河さんに先を越されてしまった。
「へぇ…
ずいぶんバラードチックな曲だね」
楽譜を眺めながらそう言うと、
堀河さんは楽譜片手にイスに座った。
そして鍵盤に手を乗せる。
「ダメ!!!」
動き出しそうとしていた堀河さんの手を
素早く掴んだ。
「え?」
「あ………ごめんなさい…」
不思議そうに
あたしを見上げる堀河さんから
手を離した。