君に染まる(前編)


泣いちゃダメ…。



そう思い、涙を拭くけれど、
気持ちとはうらはらに
どんどん溢れてくる。



ダメ…お願いだから止まって…。



必死に涙を抑えようとしたその時。



ポツポツ…



何かを感じ、空を見上げる。



「あ…雨?」



顔に落ちてくる小さな雫は
次第に激しくなっていった。



どうしよう…
このままここにいたんじゃ風邪ひくし、
だからって帰るわけにはいかないし…。



悩みながらも、
楽譜の入ったかばんを守るように
着ていたカーディガンを頭から被った。



カーディガンから染み込む雨と、
地面から跳ね返ってくる雨は
どんどん体を冷やしていく。



秋が近づいているとはいえ、
いつもなら明るい夕方も
雨のせいかものすごく暗い。



…寒い。



両手に息を吹きかけてこすり合わせた時、
あたしの周りだけ雨が止み、
かわりに降ってきたのは
いつもの低い声だった。



「バカかお前」



驚いて顔を上げると、
待ち焦がれていた先輩が
傘を持ってあたしを見下ろしている。


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