君に染まる(前編)


「せんぱっ…」



思わず立ち上がったあたしの頭に
先輩がタオルを乗せた。



「風邪でもひいたらどうすんだよ。
俺のせいにされても知らねえからな」



そう言って、あたしに傘を差し出す。



「もうすぐ畠山が車回してくるから、
それ乗ってさっさと帰れ」



帰れって…。



「あたし、先輩に話があるんです」



「俺は無い。だから早く帰れ」



「でも…」



そう言いかけた時、あたしは気付いた。



先輩…少し息が荒い?



髪も服も濡れてるし、
傘だってあたしに渡してくれた1本だけ。



それに、車を回すって言ったって、
門から建物までのこの道を通るんだから
車に乗ってくればいいのに…。



…もしかして走ってきてくれた?



あたしが風邪をひかないよう
傘とタオルを持ってくる為に…。



そう考えていると、
1台の車があたし達の近くに止まった。



運転席から降りてきた畠山さんが
車のドアを開けてくれる。



けど、あたしは乗ろうとしなくて、
そんな様子を見た先輩が
あたしの背中を押した。


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