君に染まる(前編)
「…あっそ。なら、勝手にしろ」
「え…」
予想もしていなかった返事に
戸惑っていると、
先輩が雨で濡れた髪をかきあげた。
「シャワー使わねぇなら俺が使う。
風邪ひいても知らねぇ。
気が済むまでそうしてろよ」
冷たい声でそう言い放ち、
バスルームに入っていった。
広い部屋にはドアの閉まる音が響く。
あたしは崩れるように
その場に座りこんだ。
…あんな先輩の顔、見たこと無い。
本気であたしのこと拒絶してた。
「…ははっ…あたし、何やってんだろ」
力なく笑ったその時、
雨で濡れたかばんが視界に入った。
そうだ…楽譜大丈夫かな…。
かばんを引き寄せ
楽譜の入ったファイルを取り出す。
「良かった…濡れてないみたい…」
1枚ずつファイルから取り出して
濡れていないか確かめていると、
楽譜のあちこちがぽつぽつと
にじみだした。
あたしの涙…。
慌てて涙をぬぐって
楽譜を拭こうとしたけど、
楽譜に書きこまれた
音譜を目にした瞬間手が止まった。