君に染まる(前編)
そうは思うけど、足が動かない。
どうすればいいのか迷っていたあたしは、
メールのせいで忘れかけていた
本来の目的を思い出した。
堀河さんのこと…ちゃんと話さなきゃ。
ここに来た時、
家の中に入れてもらえなかったことに
動揺してすっかり忘れてたけど、
先輩が耳を傾けてくれるのを待たずに
話しを切り出せばいいんだ。
無視されても…
先輩が反応してくれるまで話し続ければ
分かってくれるかもしれない。
…嫌われなくて済むかもしれない。
さっき携帯が鳴ったのは
メールを受信したものだったらしく、
背中を向けたまま携帯をいじる先輩に
あたしは口を開いた。
「…あ、あの!」
あたしの声に一瞬動きを止めた先輩は、
「…あ?」
不機嫌な声をもらして
再び携帯をいじりだす。
「あの…あたし…キス、してませんから」
そう言うと、また先輩の動きが止まった。
「あれは、ピアノの中を覗いてただけで…
先輩にはキスしてるように
見えたのかもしれませんけど…違って…
あ、堀河さんはピアノ教室の先生で、
お兄ちゃんの友達で…その…
もう1人のお兄ちゃんみたいな人で…
だから浮気とかじゃなくて…あの…」
なんか…まとまってない…。