君に染まる(前編)
すばやい返事と低い声に
思わずビクッとしてしまった。
「あ…いや、だから…
自分から誘ってくる女なんて
大体そーいう奴だってことだよ」
さっきよりも穏やかな口調になると、
再び話し始める。
「んで…そんな女達とは大体一晩の関係。
誘われて、ホテル行って、
終わればその場でさよーなら。
中にはまた誘ってくる奴とか、
彼女になりたがる奴とかいたけど、
ほとんどは1回きり。
まあ俺だって、
特に気になる奴とか
もう1度会いたくなるような奴なんて
1人もいなかったから別にいーんだけど…
見ちまってさ」
「…見た?」
「ああ。昨日の夜一緒に過ごした女。
別れ際に次に会う約束と一緒に
『創吾くんの彼女に立候補してもいい?』
って、甘い声で言ってきた女が、
約束の日に時間ギリギリまで
彼氏とデートしてるとこ」
え…それって…。
「二股…ですか?」
「たぶんな。しかも、俺が2番目」
ハハッと笑う先輩。
「でも、なんも感じなかった」
「何も…って?」
「悔しいとか悲しいとかムカツクとか…
そーいうことなんも感じなかったんだ。
ただ、『女って怖ぇ』って思っただけ。
初めてだったから少し驚いたけど、
そんな女その先ごろごろいたしな」
ごろごろって…。