君に染まる(前編)


「でも…どうして、今そんな話を?」



本題からそれたことを軽く指摘すると、
先輩は小さく笑った。



「…俺さ、すっかり忘れてたんだ。
無関心だったせいか、
そんな女達のこと
記憶の片隅でしかなかった。
でも、急に思い出しちまって」



その瞬間、お互いの視線が絡まった。



「…お前が他の男といるとこ見たら」



え…?



先輩の言葉に心臓がどくんと跳ね上がる。



「未央は他の女と違うって思ってたから、
まさか俺と約束してる日に
他の男とキスなんて…」



「ち、違います!」



先輩の言葉をさえぎり
慌てて言葉を続ける。



「あれは先輩の誤解で、
あたしは堀河さんとキスなんて…」



「分かってるって。
人の話は最後まで聞けよ」



ぴしゃりとそう言われ口を噤んだ。



「つーか、それさっきも聞いたし、
俺の勘違いだったってことは
美紅からのメールで知ってたし…」



「え、聞いたんですか?」



「ああ。だからその話はもういーんだよ」



ぶっきらぼうではあるけど、
先輩の口から聞けて
ホッと胸を撫で下ろす。


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