君に染まる(前編)
笑顔を浮かべるあたしに
先輩は歪んだ表情を向けた。
「悪い、なんか…
変に傷付けたみたいで…」
そのままあたしを抱きしめる先輩の腕は
すごく優しくて、心地よくて…。
ずっとこのままでいたいけど、
その前に伝えなきゃいけないことがある。
「……好きです」
あたしの素直な気持ち。
さらっと言えたことに驚いたのは
あたしだけではなく…。
「…え?」
小さな声をもらして腕をゆるめると、
あたしの顔を覗きこむ先輩。
「…今、なんて?」
よっぽど驚いたのか
ほとんど瞬きせずあたしを見つめてくる。
それは、
思わずそらしてしまいそうなほど真剣で…
だけど…。
「……好きです」
一瞬でもそらすことなく、
再びその言葉を口にした。
「財閥の御曹司だからとか…
お金持ちだからとか…
そんなの全部関係無く………好きです」
そらされることの無い先輩の視線に
鼓動が速度を上げていくのが分かる。
「あ、あたしは…
自分でも気付かないうちに
先輩のことを好きになってて…
だから…どこが好きかと言われると
はっきりとは答えられないです…
でも、あえて言うなら……優しさが…」