君に染まる(前編)
顔を真っ赤にする未央を抱きしめ
顔を近付ける。
「そ…そ、そういえば聞きましたっ」
唇が触れそうになった瞬間、
慌ててそう言った未央は
両手で俺の口をふさいだ。
「し…そ、創吾先輩が
ピアノ独奏曲が好きだって…」
「あ?…好きだけど、それが何?
んなこと今はどーでも…」
「ピ、ピアノ習ってたんですか?」
…話そらした。
「…まあ、一応財閥の子息だからな、
たしなみとして習わされてた。
でも、それが理由じゃない」
小さなため息をつきながら体を起こす。
「…俺、ガキの頃すっげぇやんちゃで、
1日中走りまわって遊んだくせに
夜になっても全然寝つかなくてさ。
そんな俺に畠山達が苦労してたら
母さんがピアノ弾きだしたんだ」
「…創吾先輩の、お母さん?」
「ああ。
ピアノ弾けるようなイメージなかったから
すげえ驚いたんだけど、
聞いてるうちにだんだん眠くなって…
それからは母さんのピアノが
子守唄代わりだった」
「それで、好きになったんですか?」
「単純だろ?」
「そ、そんなことないです!
ステキだと思います!」
ぶっ…ステキって…。