君に染まる(前編)


「や、大丈夫です」



お兄ちゃんが待ちぶせしてるかも
しれないし…。



「送ってくれてありがとうございました
気をつけて帰ってくださいね」



軽く頭を下げて振り返ろうとした時、



「未央ちゃん」



突然腕を掴まれた。



「あのさ…」



首をかしげるあたしに
植野先輩がゆっくり近づいてくる。



じっと見つめると
そっとあたしの頬に触れた。



え……。



理解出来ない状況に戸惑うあたし。



そんなあたしをよそに
先輩は顔を近づけてくる。



これってもしかして…
いや、もしかしなくても…キス?



心臓の音が半端じゃないあたしは
近づいてくる先輩の顔に合わせて
ゆっくり目を閉じた。



あと少し…あと少し…。



…と、いうところで、
誰かに腕を引っ張られた。



「そこまで」



聞こえてきた獅堂先輩の声。


< 56 / 337 >

この作品をシェア

pagetop