君に染まる(前編)


引っ張られたあたしは
獅堂先輩の後ろに回り込まされた。



「誠実な会長が
道のど真ん中で堂々とキスかよ」



「獅堂くん…なんで君が?」



「帰れ。じゃねぇと今すぐぶっ飛ばす」



顔は見えないけど
あきらかにキレてる獅堂先輩。



「…じゃあね未央ちゃん」



小さな声でそう言うと
植野先輩は帰っていった。



「お前も早く帰れ」



植野先輩が帰るのを確認すると、
あっけなくあたしの腕を離して
スタスタと歩いていく。



「え…」



散々邪魔しといてそれだけ?



「ちょ…ちょっと待ってくださいっ」



そう呼び止めるけど
先輩は立ち止まらない。



追いかけるあたしを完全に無視し、
どこからか現れた車に乗り込んで
帰っていった。



あたしは走り去る車を呆然と眺めていた。











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